夜、娘とくつろいでTVを見ていると、何か音がする。 家の横は狭い小路なので、又車がなにかにぶつかったのかと、娘と顔を見合わせ、いぶかしんでいると、ゴトンッ! ゴトゴト ドンッ!!と大きな音。 お風呂場だ!と娘は立ち上がる。
娘が行くと、お風呂場から、フーロが出て行ったという。
お風呂の窓辺に、ネコたちのいたずらから逃れるために、避難していた苔玉7ヶが、無残に風呂ふたの上で、転がっている。 庭石菖の葉は、すでにかじり取られている。 他の苔玉は、何とか無事だ。
娘はフーロを探す。 2階を探してもいない。 フーロ フーロと呼んでも出てこない。 何処にいるのか、出て行くところないよネ、と確かめる。
風呂場の戸を、いつもは風通しのために、少し開けておくのだが、苔玉のために、チャント閉めておくように、娘にも言っておいたのだ。 他の戸は、店のシャター以外は、ことごとくフーロは、何の苦もなく開けてしまう。 その風呂場の戸を、うっかり、いつものように、すかして開けていたのだった。
ネコは、外の空気の匂いに敏感だ。 一度風呂場の窓から脱走したこともある。 それ以来、数センチの幅だけ、風通しのために開けておいて、つっかえ棒をしていたのだが、苔玉に明かりが必要なので、2重の窓の内側の窓は、全開にしてあった。
フーロはその窓に飛びつき、苔玉をころがして物音を立て、失敗したのだった。
小1時間後、娘は私を呼ぶ。 「お母さん お母さん アレを見て」 居間を出て2階を見上げると、ドアのところから、半分顔を出したフーロが、私たちをうかがっている。
苔玉を転がしてしまったことに、フーロの心が打撃を受けている。
もっと小さい頃にも、こんなことがあった。
私たちが、楽しみにしている、TV番組ポチたまを、録画し損なったとき、お互いに気付いて、同時に、アーッと大声を出したことがあった。
私の足にひっついて眠っていたフーロは、ハッと目をさまし、いつもはつりあがった細い目をまんまるにしたと思ったら、ズボッと、ねこの出入り口から、大急ぎで逃げ出していったことがあった。 なにも悪いことをしたわけでもないのに、フーロには思い当たることがあったのだと、私たちは、しばらく、お腹をよじらせて、大笑いをしたのだった。