随分以前に読んで、心に残った言葉があります。
良寛の最後を看取った貞心尼が、死ぬとき残したものは、洗いざらしの布巾、一枚だけと。
日常を送っていれば、布一枚という暮らしは成り立たないけれど、その言葉は、私の心に鮮明にひびいた。
くらしの日々に、なにもいらないと言うことではない。 気に入った陶器を購ってもいい。
花を大切に育ててもいい。 だが執着はしないということ。
なにかあれば、すべてを捨てられるという気持ちで生きること。
また、別の本で読んだことだが、マンションの空室に仕事で入ったときのこと。
叙勲の記念写真なのか、立派な盛装をした一族の写真や、旅行の記念写真が、床に散乱していたこと。
そういう記念は、一代かぎりのものなのだと、写真の散らばった、冷えびえとした空室で
胸をつかれたことなどが書かれてあった。
無常という思いが、私の心にいつもあるが、その部分に強くせまる描写だった。