母が60才になったとき、「もう年だから、お化粧をやめる」と言った。
母は、寝起き姿を夫に見せるな、と言われて育った明治女で、みだしなみが良かった。
5人の子を育てながら、胸元も髪も、いつも乱れがなかった。
着物の柄は、40にもなって、こんな大柄はと、いつも地味めの着物をえらぶ。
いつも薄化粧をして美しかった。
昔は、親をみて嫁にもらえと、言ったものだが、わが3姉妹は、器量も性格も母親に遠く及ばず、残念な思いであった。
鏡を見て思う。 昔の母の年齢に10才足すとして、70を越えた今、化粧をやめられるか。
口許も目の周りも、どこもかしこもシワで一杯である。 化粧して、仕上げに遠近両用眼鏡を
かける。 グーッとシワがアップされる。 あぁ もうダメだ!!
でも他人のシワなら気にならないのだから、他人も私のシワなど気にしないだろう。
私は出かけなければならぬ。 現実には目をつぶろう。
母よ あなたはエラカッタ。