|
姉や兄たちが学校へ行ってしまうと、まだ未就学の私はひとりになる。朝の慌ただしいひと仕事を終えた母の膝に乗る。
「ねぇ、母さん・・子供の中で誰が一番可愛いの?」
「子供はね、手の指とおんなじなの。どれ1本切っても痛いし、どの指がなくなってもとっても困るの。大事な大事な5本の指なの。」
暫くしてまた同じことを聞いても、いつも答えは同じ。
つまらない。どうしてY子が一番かわいいと言ってくれないの・・と不満だった。
母はいつも優しかったが厳しい顔をすることもあった。父はよく怒鳴って怖かったが、母が本当に怒ると父よりも怖いと思った。
食べ物の好き嫌いにも厳しかった。姉が味噌汁に入れた三つ葉を嫌って残すと、食べるまで学校へ行かせなかった。
キョウダイが叱られていると私はいい子のフリをする。そんなときは母は優しくしてくれない。
特別美人ではなかったが、すらりとしていつもきれいにお化粧して、髪も乱さず気品のあった母は、どこに行っても、「いつも床の間にちんまり坐っているようだね・・」と云われた。
なんのなんの、5人の腕白どもを育て、婿入りなのに亭主関白風を吹かす父に仕えた。
明治の社会が望んだ婦道を迷わずまっしぐらに歩いた人だった。
|