誠一郎が骨を惜しむのに反して、父親は反対に正直で仕事に精を出す。
それだから父と私とは常に気が合いませんでした。共に楽しんだ事はありません。『なんといふ親不孝者になったものか』と我が身ながら自分であきれる事さへありました。
現役中は家を離れることが出来ませんから、やむを得ず父と同居していましたが、予備役になるとすぐ、許可を得て空知集治監の看守を奉職しました。
父と別れておりますと妙なもので、互いに懐かしい思いがして、手紙を出すのであります。
そこで時々帰ってきて顔を見合すと、忽ち嫌な気持ちになるのです。
幼少のときに叱られた時の、鋭い父の眼が私の眼に写ると、そのままうつむくようになるのです。
私がうつむくと、父もまた嫌気になるようになるわけで、実に困った次第でありました。
出征中のこと、帰えってからの仕事の事、盗伐木で罪をかぶせられるいきさつ、八卦見の坊主にだまされるいきさつなどが数ページに渡って、細かく書かれていますが割愛します。
コマツの持ち物全部を売っての控訴のおかげで、無罪となりましたが・・・・・
裁判所から帰りますと、もう日が暮れていましたので、明朝出してくれるのかと思ふていますと、そこへ看守が来て、所持品を渡して午後10時頃未決監を出ました。
宿賃も無いので、監に泊めてくれればよいと思いましたけれども、罪の無い者は1時間も置くことは出来ぬと申されました。
それから旅館に泊まって、翌朝父に電報を打って、金を持ってきてもらい帰りました。
随分ひどいことをするものですね。今はそんなことはないでしょう