私は母親似である。 父親は二重瞼の涼やかな目をしていて、若いときの写真を見ると、中々の美男子である。
母親も色白のほっそりした人で、美しいといわれていた。
その母親そっくりと言われて、子供のときは嬉しかった。
年頃になると、口の悪い男の同級生は、母親には全然かなわない・・・と言った。
それは私もそう思っていて、いたし方のない思いでいた。
母は97才で亡くなった。 だんだん自分の声も顔も晩年の母にそっくりになってくる。
そっくりになってくるのが、今度は嫌である。
寝たきりだった老いた母の顔には、まだ似ていたくない。
先日飲み会のあった娘が夜中に帰ってきて、居間のベットに寝ている私の顔を、なにかのはずみでまともに見たらしく、
「イヤダネ! オバァチャンそっくり!」と吐き捨てるようにいった。
私は寝たふりをしていたが、少し傷ついた。 が、娘の気持ちはよく分かった。
自分の母親は、いつまでも若くて元気でいてほしい。
寝たきりでいたオバアチャンの顔そっくりの母親の顔に、思わず拒否反応が出たのだろう。
仕方ないよ。 今のうちに見慣れていておいてほしい。